土砂降りの雨に打たれたときはいつも彼女のことを思い出す。


彼女はアパートの僕の部屋のちょうど前で雨宿りをしていた。
きっとふわふわだったワンピースは雨に濡れて彼女の肌にまとわりつく不快な存在になっていた。
手元にあるのは地図だったのだろうか、もう雨によって用を成さなくなったそれを見つめる瞳が美しかった。


何か大切なものを探しているのだと、僕は直感した。
そして、見つかるまではいつまでも雨の中を歩き続けるに違いない、とも。
だからだろうか、ふだん女性に声なんかかけられない僕が、声を出せたのは。
「中、入りませんか。そのままだと風邪をひきますよ」
そんなことを言えたのは。


彼女は素直に頷いてくれた。
その瞬間、僕の物語は僕たちの物語になった。