大石圭

死者の体温 ISBN:4309012159出生率ISBN:4309010911読む。
どっちも救われない話だ。
「死者の体温」は、人間というのはかけがえのない、スペアのない存在という考えをもつ男が、そのかけがえのない存在を消去する──殺すことに快楽を覚えているという話。それだけならば単なる殺人鬼で終わってしまうのだが、ある日電車に飛び込み自殺した光景を目にし、飛び込んだ男の物語を知りたいという欲求を抱いてから何かが変わっていく。
出生率0」は、ある日突然子供が生まれなくなったという設定の、数年後の世界。街の巨大なタワーには現在の人口数を示す電光掲示板が設置され、刻一刻とその数を減らしていく。金持ちは貯めていても仕方が無い金を浪費するようになる。街には止むことなく雨が降り続け、片付けられることのないゴミが放置されている。
未来が無くなるというのはこういうことかと、嫌なところをこれでもかと見せてくれるが、死への恐怖を失った若者たちと電光掲示板の数字が1になる──人類最後の一人になるまで生き延びてやると決意する人類最後の子供の対比が物語をきれいに終わらせてくれる。
いずれも傑作ではある。作者が上手いのだろう。