三浦半島へ

何度か電車を乗り継ぎ、京急線に乗り、終点までの短い(とはいえ一時間はかかる)旅。BGMは「潮騒のメロディー」で。
車内広告が路線沿線のもの中心になっていることで、遠くまで出てきたなあ、という印象がいっそう深まる。

電車が何度か乗客を呑みこみ、それ以上に吐き出して、車内は静かになっていく。
終点のひとつ前が「三浦海岸」という直接的な名前だったのでここで降りれば海が近いのかと少し迷ったが、せっかくなので終点までは行ってみることにする。

で、降りた。
駅は見事に山の中で、駅前の観光案内看板をみて、海に出るには更にバスに乗る必要があるらしい。とはいえ歩いて海まで出られない距離でもないようなので、実に大雑把な観光地図を頭に入れ、太陽の位置で方角を確かめて歩くことにする。


その日は暖かかった。その中を歩くのだから熱いくらいだった。汗がよく出た。
額の汗を手の甲で拭いつつ、左右を畑に挟まれた、つまりは畑の中を通るようにつくられた農道を歩き、それらしい方向へと向かっていく。
農道はやがて終わり、林の中の未舗装の道路へと続く。いい加減不安になったが、いざとなれば戻ればいいやと開き直り、視界の悪い林道へと踏み入れる。
視界が悪いので、どのあたりを進んでいるか自信を持てなくなった頃、波の音がかすかに聞こえた。それに勇気付けられて、足に力をこめる。
そうして唐突に視界が開けた。
──海岸だった。