ものがたり

南北分断により北海道が異国のものとなっている世界。その北海道には、どこまでも高くそびえる『塔』がある。
見ればそこにある。しかし決して触れることの出来ない塔。
青森に住む中学三年の男子ふたりは、若さゆえの無謀さで、国境を越えて塔にいくための手段として飛行機作りを始める。二年の頃から始めて、ようやく形になってきたとき、もう一つの憧れである同級生のサユリと関ることになる。偶然、街角で出会ったサユリと一人は、話の流れからアルバイトをしていること、その目的が飛行機作りで、行き先は塔であることを話してしまう。サユリが興味を持ったので、飛行機作りの現場にサユリはやってくる。とはいえ、サユリには実際作業を手伝うことは出来ないから、楽しそうに飛行機作りに没頭する二人を見ているだけなのだが。
それでも、飛行機作りは三人の作業であって、三人は夏休みのひと時を共有し、いつかこの飛行機で塔に行こうと語りながら、この時間がどこまでも続くとまで錯覚を覚える。


しかしサユリがある日を境に姿を消し、二人は飛行機作りの熱意をなくし、そうして別々の進路を選び、三年が経つ。
だがあるとき、サユリが彼らの前から姿を消したのが原因不明の昏睡状態であることを知り、主人公の一人ヒロキは彼女のいた病室を訪れる。そして、そこで余人には万言を尽くしても説明できないが決して揺ぎ無い想い──サユリを塔につれていけば彼女は目覚める──を抱き、中学三年のときに何気なく交わした約束を、中学生の夢語りではなく、現実にしようと行動を起こす。
サユリは、その脳の状態と塔との因果関係があると推測され、軍の研究施設に置かれていた。そこで研究員として働く主人公のもう一人タクヤは、ヒロキからの相談を受けて、そんなことをしてどうすると反対する。しかし、反対しながらも心を動かされ、サユリを連れ出して飛行機の完成に手を貸す。
折りしも南北日本、実際には北海道を領有するユニオンと米軍の対立が頂点に達し、戦争が始まるところだった。南北統一を掲げる組織──かつて二人がアルバイトをしていた工場のもう一つの姿──が塔を破壊するためのミサイルを用意し、お前の飛行機に必要なものを揃えてやる、だから塔を破壊してこい、と詰め寄り、ヒロキはそれを受け入れる。
憧れの場所にいく。そして、それを自らの手で消し去る。サユリとの果たせなかった約束を果たすために、二人乗りの飛行機の後部座席にサユリを乗せ、ヒロキは戦争の始まった北海道に向かって飛び立つ。


あとは、説明するまでもないだろう。
塔に行き、塔の周囲を旋回しつつ上昇し、ついにその頂上部にたどり着いたとき、サユリは長い眠りから覚める。飛行機は塔を後にし、ミサイルを放ち塔を消し去る。
そうして憧れのすべてを無くした世界に、彼らは帰還する。